COIN TOKYO

  • 2018/12/12
  • 2018/12/12
  • コイン東京編集部 アオ

アトミックスワップとは?DEXや仮想通貨の未来・実装や仕組みまで

このエントリーをはてなブックマークに追加
アトミックスワップという名称から、原子力に関するものかと想像する人も多いでしょうが、この場合のアトミックとは、不可分(操作)という意味であり、情報工学においていくつかの操作を組み合わせたもので、システムの他の部分から見てそれらがひとつの操作に見えるものをいいます。

仮想通貨の世界におけるアトミックスワップとは、取引所を介さずに個人間で仮想通貨の取引ができるようになるテクノロジーのことで、これまでの投資の概念を根底から覆してしまうような技術なのです。

実現できたら、さぞやすごい世界になりそうですが、ここではアトミックスワップの難解な仕組みや、メリットや課題、事例を中心にできるだけわかりやすく徹底解説してみます。

1.アトミックスワップとは?

前述したように、アトミックスワップとは取引所などの第三者を仲介せずに仮想通貨の交換を行う技術です。

例えば、Aさんが持っているビットコインを、Bさんの持っているイーサリアムと交換したい場合、アトミックスワップを利用すれば、取引所を介さずに交換することができます。

現状は仮想通貨に将来性を感じる反面、Mt.Gox事件やcoincheckのnem流失問題で、取引所に不安を抱えている方は多く、金融庁の登録制という法整備が敷かれたにも拘わらず、登録を受けていたZaifが問題を起こしたことは投資家の不安解消の妨げとなっています。


ですがアトミックスワップが実装されることで、取引所の破綻や、流失してしまうといったリスクを一挙に解決してしまう技術なのです。

1-1.クロスチェーンを実現するうえで重要な技術、DEXと関連も

仮想通貨におけるクロスチェーンとは、その名の通りにブロックチェーンをまたぐことを指しており、クロスチェーン取引が可能となると何ができるのかというと、仮想通貨取引所などの第三者を経由せずに異なる仮想通貨を直接交換することができるようになります。

これにより、日本国内で発生したようなGox事件、コインチェック流出事件、Zaif流出問題などの仮想通貨取引所が持つ深刻な問題であるセキュリティ上のリスクや、取引手数料などを回避できるようになります。

このクロスチェーン取引を実現させる技術がアトミックスワップであり、2017年9月には世界で初めてビットコインとライトコインによるアトミックスワップが成功しています。


クロスチェーンは、異なるブロックチェーン同士をつなげる技術であることから、ブロックチェーンのインターネットともいわれており、各ブロックチェーンの拡張性や接続性が課題となる中、本物の非中央集権・分散型システムを実現するうえで不可欠な技術として注目されています。


DEX(分散型取引所)のバンコールは、11月5日、クロスチェーンによるトークン交換を実現するためにEOSとのパートナーシップを完了しました。

2.アトミックスワップの仕組み

アトミックスワップの仕組みは、初心者の方には非常に難解なものとなりますが、まずは現状との違いを理解しながら見ていきましょう。

通常の仮想通貨取引所では、取引所が信頼できるという前提でお金(法定通貨)を入金してビットコインなどの仮想通貨を購入したり、あるいは、所有する通貨を売却したりします。

ところが、アトミックスワップを使えば、第三者である取引所を介さずに直接に仮想通貨の交換ができるようになります。

ビットコインは他人に専用アドレスを使って送金は可能であり、今でも取引所を介さずに他人と仮想通貨を交換することは可能です。ただし、どこの誰とも分からない相手と取引するのは危険性が高いです。

つまり、アトミックスワップとは、トラストレス(信用を前提とせず)にどこの誰とでも安全に仮想通貨の交換ができる技術であるわけです。

2-1.HTLCについて

まず、アトミックスワップの仕組みを理解するうえで、HTLC(Hashed time lock contract)は重要な要素となります。HTLCとは、決済相手に直接送金するのではなく中間者を経由して送金する仕組みです。

HTLCを利用することで、どこの誰とも分からないチャンネル未開設の相手とでも第三者を経由することで、トラストレスに取引することができます。

HTCLでは、ペイメントチャンネル(※1)を使用するマルチシグアドレスに、ハッシュ関数(※2)の元の値とロックタイム(※3)でマルチシグ(※4)を使用するための条件を設定し、条件が満たされるまで固定する(送金できない)という仕組みが存在します。

そして、この仕組みを解除する条件が「ハッシュ関数の元の値の入力」もしくは「ロックタイムの解除」なのです。

難しいのでごく簡単に言うと、「仮想通貨の授受を確認することや将来の支払いを保証する条件を設定でき、この条件を満たさなければ送金できない」ということです。

アトミックスワップとは、このHTCLの特性(この条件を満たさなければ送金できない)をうまく利用しているわけです。

※1 ペイメントチャンネルとは、ブロックチェーンを経由せずに、その外の通信路(オフチェーン)で取引を行うものです。

※2 ハッシュ関数とは、一方向関数とも呼ばれる暗号技術で、任意の長さの文字列を(元の値)を入力すると一定のサイズのランダムな数値を返すような関数で、このランダムな数値をハッシュ値と呼びます。

暗号技術であるハッシュ関数は出力された数値から、「ハッシュ関数の元の値」に復号化することはできません。そういった意味から一方向関数と呼ばれます。

※3 ロックタイムとは、トランザクション(取引)を設定した時間まで利用できなくする技術のことです。署名済みのトランザクションにロックタイムを付けて作成することで、ロックタイムで設定した時間までキャンセルすることができるようになります。

※4 マルチシグとは、マルチシグアドレスで有名ですが、トランザクションの承認に複数人の署名(秘密鍵)を必要とする技術のことです。


それでは、2017年9月に世界で初めて成功したライトコインとビットコインによるアトミックスワップでその仕組みを説明します。

アトミックスワップでは4つのトランザクションが発生しています。

トランザクション(1):AさんのBTCをマルチシグアドレス①に送るトランザクション
トランザクション(2):BさんのLTCをマルチシグアドレス②に送るトランザクション
トランザクション(3):LTCをマルチシグアドレス②からAさんに送るトランザクション
トランザクション(4):BTCをマルチシグアドレス①からBさんに送るトランザクション

この4つのトランザクションによって、AさんとBさんは取引所などを介さずに取引を実行できるわけですが、ここで先ほどのHTLCが登場してきます。トラストレスに取引するために、AさんとBさんを仲介しているマルチアドレスに特殊なタイムロックであるHTLCをかけておくのです。

ポイントとなるのは、4つのトランザクションの順番で、HTLCの条件の解除にはこの4つのトランザクションの順番が進むことで、段階的に解除されていくのです。

トランザクション(1)
AさんはBTCをBさんに送るため仲介役となるマルチシグアドレス(1)に送ります。そして、ある条件を満たすことでBさんがBTCをマルチシグアドレス(2)から取り出すことが可能となります。このある条件となるのがHTLCの解除条件となります。

Aさんからマルチシグアドレス(1)にBTCが送られた時点ではHTLCによってロックがかけられています。

マルチシグアドレス(1)のHTLCの解除条件は以下の3つのいずれかとなります。

1.Aさんの持つ「ハッシュ関数の元の値」とBさんの「署名(ロックタイム)」
2.AさんとBさんの署名
3.時間切れ

BさんがHTLCの解除しようとすると、Aさんの持つ「ハッシュ関数の元の値」が必要になるのでBさんの署名(ロックタイム)だけでは解除できません。また決められた時間でトランザクションが実行されなければビットコインはAさんの元へ返金されます。

トランザクション(2)
トランザクション(2)と同じ手順で、BさんはHTLCによってロックのかかっているマルチシグアドレス②にLTCを送ります。このHTLCでも上記と同じハッシュ関数を使うので、Aさんが持っている「ハッシュ関数の元の値」がHTLCを解除する鍵となります。

下記がこのマルチシグアドレス(2)の解除条件です。

1.Aさんの持つ「ハッシュ関数の元の値」とAさんの「署名(ロックタイム)」
2.AさんとBさんの署名
3.時間切れ

この段階で、AさんとBさんは署名に必要なお互いの秘密鍵を交換する仕組みとなっています。これによりHTLCのロックを解除することができますが、この段階ではお互いのコインが元に戻るだけです。

仮に、Aさんが悪意を持ってBさんに秘密鍵を渡さないという選択した場合は、HTLCのロックタイムによりBさんにLTCが返金されます。逆のケースでは、AさんにBTCが返金されます。

つまり、どちらかが悪意を持った瞬間にこの取引は消滅してしまうのです。

トランザクション(3)
Aさんは「ハッシュ関数の元の値」を知っていますので、トランザクション(3)を実行します。そうすると、Bさんがマルチシグアドレス(2)に保管したLTCがAさんに送金されます。

このときにAさんが使用した「ハッシュ関数の元の値」は、Bさんに対してブロードキャストされなければなりません。つまり、このトランザクション③が実行された時点でBさんも「ハッシュ関数の元の値」を知ることになるのです。

トランザクション(4)
Bさんは上記で得た「ハッシュ関数の元の値」を使用してマルチシグアドレス(1)のロックを解除してBTCを自分に送ることができます。

一連の流れでポイントとなるのは、AさんがLTCを取り出そうとすると「ハッシュ関数の元の値」を公開しなければならず、そうするとBさんも同時にBTCを取り出すことができ
るという点です。

3.アトミックスワップの実装メリットや課題

続いてアトミックスワップのメリットや課題について幾つかポイントを挙げて解説していきます。

3-1.アトミスワップのメリット

(1)第三者の仲介が必要ない
アトミックスワップを利用することで、仮想通貨取引所を介する必要がなくなります。仮想通貨のホルダー同士で安全なP2Pの取引が可能となりますので、匿名性の高い取引を行うことができるようになります。

本年に発生したコインチェックの流出事件やZaif問題など、取引所自体がハッキングされることで預けていたコインが失われるというリスクが回避できます。


(2)不正な取引のリスクが減る
アトミックスワップでは、双方の取引が瞬間的に行われるため、どちらかが持ち逃げするということは不可能です。トランザクションの半分だけ進行して持ち逃げしようとしても、一定時間後に両者に全額返金される仕組みとなっています。


(3)異なる通貨同士での取引が可能
アトミックスワップはクロスチェーンを利用していますので、異なるブロックチェーンをつなぐことが可能です。これにより、異なる通貨同士での取引も可能となります。

3-2.アトミックスワップの課題

(1)送金速度が遅い
アトミックスワップではトランザクションが承認されるまで時間がかかります。例えば、ビットコインの場合、ブロック生成時間が約10分で、トランザクションが99.9%以上承認されるのに6ブロック追加されることが必要であり、最悪の場合には仮想通貨の交換に1時間かかります。

今後、ライトニングネットワークのオフチェーンと組み合わせることでスワップ時間を短縮できる可能性はありそうですが、現状では結構な時間がかかります。


(2)アトミックスワップに成功した通貨が少ない
すべての通貨で利用できるというわけではなく、現状でアトミックスワップに成功したのはBTC、LTC、MONAなど限られた通貨となります。


(3)手数料がかかる
アトミックスワップの取引自体は個人間で可能ですが、トランザクションの承認にはマイナーの力が必要なので手数料がかかります。

4.アトミックスワップの銘柄や事例

(1)ビットコイン(BTC)とライトコイン(LTC)
2017年9月に、世界で初めてビットコインとライトコインによるアトミックスワップが成功しています。


(2)イーサリアム(ETH)とビットコイン(BTC)
2017年10月、イーサリアムとビットコインによるアトミックスワップが成功しました。


(3)モナコイン
2018年1月、日本発の仮想通貨でインターネットの投げ銭などとして利用されていたモナコイン(MONA)がアトミックスワップに成功しています。


(4)リップル
分散型オーダーブックを備えたマルチアセット対応のライトウォレット「アトミックウォレット」はアトミックスワップ機能にリップル(XRP)のサポートを追加する予定であると発表しています。

5.まとめ

非中央集権であるはずの仮想通貨の取引が、民間企業である仮想通貨取引所で行われているという事実は、ひょっとすると仮想通貨相場にも何らかの影響を与えているのかもしれません。

しかし、このアトミックスワップが実用化されるようになると、非中央集権の仮想通貨を第三者を介さずに安全にP2P間で取引できるようになります。まさに、アトミックスワップとは仮想通貨の世界を拡張させるような次世代のテクノロジーです。

仮想通貨が株式や法定通貨と異なる最大の特徴とは、中央集権を持たずに誰からも管理されないということですから、取引所での取引ではなく、DEXやアトミックスワップの時代がすぐそこにやってきているのかもしれませんね!

仮想通貨の最新情報をお届けします!

人気記事ランキングまとめ

もっと見る