先述のとおり、ブロックチェーンのUXに関する課題には様々なものがあります。中には既に多方面で語り尽くされている課題もありますが、概ね以下のものが挙げられるでしょう。
- ウォレット作成のハードル
- 取引所への口座開設、個人認証
- ユーザがGAS代を負担する
- 実行環境(ブラウザ)が限定されている
- 署名の度に確認ダイアログが出る
- ブロック取り込みに時間が掛かる
本稿では、これら課題の中でも他所では言及の少ない、 実行環境が限定されることによるUXの課題について深掘りしていきましょう。
ブロックチェーン上でのユーザの資産移転やデータの記入には、秘密鍵(≒ ウォレット)による署名が必要となり、「正にそのユーザによる行為である」事が証明されます。
現状、主にブラウザアプリとして提供されているブロックチェーンアプリ上においても、この秘密鍵による署名という行為は必要で、そのためのブラウザ拡張機能であるMetaMaskがデファクトスタンダードとして利用されています。MetaMaskはユーザのウォレット情報をウェブサイトから切り離すことで安全に管理し、実行環境であるブラウザでウォレット公開鍵(≒ ウォレットアドレス)の利用可能にするアプリケーションです。
モバイル環境では、いわゆるウォレット機能付きのブラウザアプリケーションの利用が現状もっとも普及した方法といえるでしょう。Trust、tokenPocket、Quragé等のアプリケーションで、アプリ内に付属のブラウザを利用してブロックチェーンアプリを利用します。仕組みとしてはMetaMaskとほぼ同様で、アプリ内で管理するウォレット情報の一部をブラウザを通じてアプリに伝えることで利用可能にしています。
このようにウォレットと実行環境が密な関係となっている現状では、実行環境にウォレットが付随していない環境ではブロックチェーン自体の利用が困難となっています。
ユーザとしては慣れ親しんだ環境でブロックチェーンを利用することができないという課題があります。
PCではMetaMaskが利用できるChromeやFirefoxで、モバイルではウォレット付きブラウザに付随するアプリ内ブラウザで利用するしか選択肢がなく、普段使用しているお気に入りのブラウザでブロックチェーンアプリを利用することは叶わないものでした。
PCではSafariやEdgeを愛用しているユーザも多いでしょうし、モバイルではSafariやChrome等、OSに標準で搭載されているブラウザを利用しているユーザが大半であると考えられます。このように、ブロックチェーンアプリ自体は単なるウェブアプリにも関わらず、ユーザは普段とは異なる環境で利用しなければならず、各種お気に入りの設定やブックマーク等は使用できないのです。
ブロックチェーンアプリ開発者としても、せっかく作ったアプリのサイトに訪れたユーザに「別のブラウザを使用してください」と案内するのは、いたずらに離脱ポイントを増やすことになり改善したい課題でした。
この課題の解決に向けた製品は今年に入ってからいくつかの製品としてリリースされ始めています。
どんなブラウザでもブロックチェーンアプリが利用できることに注力し、電話番号による認証機能を搭載したアプリケーションや、より幅広いシーンでの利用を目指してGoogle認証によって秘密鍵をセキュアに管理できるシステム等、各社がそれぞれのアプローチでこの課題の解決に取り組んでいます。
2次元コードや近距離無線通信技術で連携できるタイプの製品においては、ブラウザでの利用はもちろんのこと、IoTでの利用や実店舗などGoogle認証が利用できないシーンにおいてもブロックチェーンアプリケーションが技術的には利用可能であり、セキュアであるということで注目が集まっています。
このような技術を活用していけば、実行環境の制限がなくなり、例えばゲーム等での利用も活発になると考えています。ユーザ同士の共闘や対戦要素のあるオンラインゲームが多く生み出される中、ブロックチェーン技術により更なる面白さの可能性が模索できるのではないでしょうか?
最近ではNintendo Switch Onlineアプリのような、家庭用ゲームの情報を連携・管理できるスマートフォンアプリが増えており、このようなアプリに秘密鍵の管理機能をつけることができれば、より多くのユーザが、ゲーム上で、意識せずにブロックチェーンを扱う事が可能になると考えています。
そうすることで、ゲーム上で手に入れたアイテムやキャラクターを、ユーザ同士で交換したりとこれまでのゲームとは異なる体験が提供できるようになるはずです。
先述の実行環境と秘密鍵の分離によって、技術的には家庭用ゲームでのブロックチェーン利用も既に可能な状態であるとは言えますが、よりユーザが意識せず、ゲーム本編と融合した統合的なゲーム体験としては、これまで以上に融ける必要があると考えています。
ブロックチェーンとは切っても切れない署名という処理を、ブラウザ等の実行環境とは切り離す事でユーザがよりブロックチェーンを意識しない環境を提供する一歩となると考えています。
このような各種技術の登場により、これまでウェブアプリが主であったブロックチェーンアプリケーションの利用シーンを広げ、より社会のインフラ技術として次の段階へ進むための準備が整ったのではないかと感じています。
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2010年に独立系SIerに新卒入社。クラウド関連事業での設計開発や、開発基盤構築に従事。 2015年 株式会社モバイルファクトリーに入社し、モバイルコンテンツ事業でフロントエンドの開発・構築を担当。 現在はDAppsの普及を目指すUniqys Projectのプロダクトマネージャーを担当している。 https://uniqys.net
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